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   行政と市民のパートナーシップによる生活道路の除排雪

                山本千雅子 北海道大学
                 原文宏 (社)北海道開発技術センター
                     佐藤馨一 北海道大学


1. はじめに

北海道の中心都市である札幌は人口約180万人で周辺地域を含めると250万人である。年間降雪量は3メートルから6メートルまで変動するが平均で4.86メートルである。
札幌市には、生活道路の排雪を目的としたふたつの制度があり、市民助成トラックを1969年から、除雪パートナーシップは1990年から実施している。本研究はこれらの制度の概要と、除雪パートナーシップ制度の導入にいたるまでの背景・市民の評価について1)1988年の住民の道路除排雪水準向上に対する支払い意思額の仮想市場法による調査、2)1990年のパイロット・プロジェクトについての住民評価、3)全市規模での除雪パートナーシップ制度導入から10年経過後の住民評価についての3件の調査結果をまとめ、報告する。


2. 札幌市と冬期条件

2-1 道路延長と除雪費
日本では通常の道路に関しては国、都道府県と都市町村が道路管理者として管轄している。札幌市は政令指定都市であることから、市は国が管理している国道以外の一般道路を管理している。
 1999年度に札幌市が管理責任を持つ道路延長は5,114 kmでそのうち生活道路が3,000 kmを占める。1998年度の除雪関連支出は市の総支出11694億円のうちの166億円を占め、住民ひとりあたり6,069円で一世帯あたり14,346である。


2-2 町内会
町内会は住民団体であるが、米国のneighborhood organizations とは、非常にちがったものである。集めた町内会費で街路灯の電気代を支払ったり、地域の子供向けの行事などを開催する町内会は地域コミュニティの住民組織と位置付けられている。現在、全市で2,086の町内会があるが、近年の都市化により町内会への住民加入率は低下しており、75.8% であり、全世帯数779,171のうち 590,675 世帯が加入している。

             

            図1.札幌市の除雪関連支出と年間積雪量

2-3 市民の除雪ニーズ
札幌の住宅の敷地は日本の他地域の都市部に比べてゆとりがあるが、住宅地全体としては道路から除雪した雪を捨てる場所はほとんどなく、道路脇に積み上げられることになる。道路脇の雪山が高くなると歩行スペースがなくなり、さらに降雪があっても玄関前などからよけた雪を捨てる場所がなくなってしまう。生活道路の道路維持幅がせまくなると救急車や消防車などの緊急車両の通行がさまたげられ到着時間がおくれることになっている。このような背景から、図2に示すように住民の生活道路排雪に対するニーズは非常に高い。

           
                   図2. 除排雪に対する要望
              (出典: 除排雪に関する市民需要調査 (1998))


3. 市民助成トラック制度

この制度では、市がドライバー付きで市民団体(主に町内会)にトラックを貸し出し、町内会のメンバーが自らトラックに雪を積みこむか業者を雇って雪の積みこみを依頼する。市が業者と契約して輸送料金を負担している。

3-1 市民助成トラック制度の長所と問題点
住民にとって雪をトラックに積み込む労力以外に出費せずに生活道路から排雪でき、市にとって全額負担して同じ路線の生活道路から排雪すると費用は莫大となることから、この制度では市と住民側の双方に利益がある。
 1998年の町内会長を対象としたアンケート調査によると、90%の町内会長が市民助成トラック制度を知っているが、実際にこの制度を利用しているケースはわずか33%であった。利用しない理由としては、1)町内会メンバーの高齢化がすすみ、年々道路からトラックに雪を積みこむ作業が困難になっている。そのため、多くの町内会が業者に雪の積みこみを委託しているが(1988年調査)が委託料が年々増加し負担が厳しくなっている、2)町内会メンバーによる雪の積みこみ作業中に事故が発生したりケガ人が出た場合の管理責任があいまいである、などがあげられた。一方、市民助成トラック制度では町内会が利用する日を決めるため、制度の利用が土曜日や日曜日と国民の祝日に集中し、市全体としての効率的な運用を図ることができないし、一般道路の排雪と生活道路の排雪は別々に計画され実施されることになるため、市にとって除排雪業者のトラックと運転手を有効に利用することができない問題点がある。


4. 住民の生活道路除排雪への支払い意思額調査 (1988年)

生活道路の除排雪のレベルアップにどの程度の金額を住民が支払う意思があるかの調査を仮想市場法で行った(原等 1998)2)

4-1 調査方法
被験者(アンケートの回答者)を世帯主あるいは世帯の支出を管理している人(いずれも20歳以上)に限定しアンケート調査を行い、図3に示す質問をした。この調査が行われるまで、一般に道路からの除排雪は全面的に行政が税金から負担する、と理解されていた。1400票を配付し、653票を回収した(回収率49.9%)。

ご自宅や周辺の除排雪作業が容易になるなら、どれくらいを支払っても良いとお考えですか。月額でお答えください。
             図 3. 住民の支払い意思額を問う質問

4-2 調査結果

(a) 支払い意思
図4に示すように、「支払う」「金額が高くなければ支払う」と回答した回答者はそれぞれ10%と65%で、これら回答者を支払い意思をみせたと判断した。「支払わない」は23%であった。
(b) 支払い意思額
、「支払う」「金額が高くなければ支払う」と回答した人の支払い意思額の平均値は40,232 円で中央値は20,000 円であった。いずれも月額である。この支払い意思額がかなり高い水準であることから、翌年、除雪パートナーシップ制度が試験的に導入されることとなった。

5. 除雪パートナーシップ・パイロット事業にたいする住民評価 (1990)

札幌市は1990年に市内21町内会6231世帯を対象に、除雪パートナーシップ制度を試験導入した。同制度では、市と住民、委託業者が協同し、生活道路からの除排雪を行った。冬期間終了後、試験導入町内会の住民を対象にアンケート調査を行った(桜田等1992年)3)

5-1 調査方法

町内会長経由で各戸に配付し郵送で回収し、回答者は20歳以上の世帯員とした。

5-2 調査結果
有効回答 2,313票で回収率は 37.1%であった。回答者の属性から見た特徴は、1) 60% が男性、 2) 20 歳以下あるいは70歳以上の回答者はほとんどいなかった, 3) 一戸建て居住者が85% を占めた。

(a) 住民の評価
「改善された」と評価した回答者が34%、「まあまあ改善された」と評価した回答者は31%であわせて65% の住民が家や車庫の前の道路除排雪状態が改善された、と評価した。一方「少しだけ改善された」は18%で「あまり変化なし」が7%、「全然かわらない」が 10%であった。

(b) 支払い金額に対する評価
合計 75% の回答者が生活道路からの排雪費用を負担することに同意した。図5に示すように10% が「支払う」と回答し、65% が「金額があまり高くなければ支払う」と回答した。住民雅負担した費用(図6参照)は、3,000 〜4,000 円が35%を占めている。図7にみるように回答者の62% が負担した費用を妥当であると評価している。

(c) 全体的な評価
「たいへん満足」あるいは「満足」という回答者は図8が示すように各々 27.2% と 43.9%, である。 年齢が高い回答者が「満足」と回答する傾向が男女にかかわらず強かった。
こうした結果から、札幌市は除雪パートナーシップ制度を翌年の1991年に全市を対象に導入することとした。

             

               
図 5. 除排雪費用の支払い意思

              
               
図 6. 負担した除排雪費用 (一戸あたり)

               
                
図7. 負担した費用についての住民評価

            
                   
図8. 全体的な評価

6. 除雪パートナーシップ制度

6-1 市・住民・委託業者の役割

住民が責任を持つ範囲は、1) 近隣の住民と同制度を利用するという合意を形成(通常は町内会単位)、2) 掛かる除排雪費用の半分を負担することである。市の役割は1)町内会の同制度利用申し込みの受け付けと委託業者などとの連絡調整、費用の積算とスケジュール調整、2) 警察などの関係機関等への連絡調整、3) 費用負担(総経費から市民負担分を引いた残金全額)である。委託業者が実際の除排雪作業を全面的に行う。

6-2 除雪パートナーシップ制度の長所
住民にとって除雪パートナーシップ制度は、1)労力が必要ではない、2) 助成トラックでは問題となった除排雪作業に従事する際の住民のケガなどの管理瑕疵問題がなくなる、3) 冬期の生活道路のサービスレベルが向上する、4) 冬期居住環境の改善などである。市にとっては 1)背生活道路のサービスレベルが向上し、住民の生活道路の排雪に対する強い要望に応えることができる、2) 生活道路以外の一般道路の除排雪作業と一体化して作業が計画できることから、全体としての除排雪オペレーションの効率化が図れる。

6-3 住民世帯が負担する費用
一世帯あたりの除雪パートナーシップ制度の負担金額は、平成11年度の平均で2,078円である。
最高で8,181 円で最低で15 円であった。

7. 除雪パートナーシップ制度導入10年後の住民評価(1999)

除雪パートナーシップ制度導入10年後の1999年に住民の同制度に対する評価を調査した(富士田等1999年)4)

7-1 調査方法
調査対象地域で各戸の郵便受けにアンケート票を投入し郵送で回収した。調査対象としては除雪パートナーシップ制度が利用されている2地域を北区と清田区から選択し、市民助成トラック制度が利用されている2地域を白石区と手稲区から選択した。また、いずれの制度も利用していない地域を中央区から一地区選択した。各地域で一戸建て100軒と集合住宅100戸にアンケート票を配布し、全市合計で1000票を配付した。

             
                         
 図9
               
               
               
図 10. 除雪パートナーシップ制度の評価

7-2 調査結果

回収率は28.3%で集合住宅からは24.9%一戸建てからは54.7%であった。一戸建てに済む住民のほうがより生活道路の排雪に関心があることが伺える。

(a) 認知度
除雪パートナーシップ制度は、同制度の利用者と市民助成トラック利用者の双方になかなりの認知度があることが、各制度の認知度を示す図9からわかる。いずれの制度も利用していない住民のうち45.3% が除雪パートナーシップ制度を知らなかった。

(b) 評価結果
興味深いことに北区の除雪パートナーシップ制度利用住民のうち回答者の46.2% が自分が所属する町内会が除雪パートナーシップ制度を利用していることを知らなかった。このことは一度町内会で同制度の利用を決めると、その後は毎年ほぼ自動的に住民間の議論を経ずして利用を継続していることが伺える。
図10は、除雪パートナーシップ制度を支持する人の割合は81.5%と高く、除雪パートナーシップ制度と助成トラックいずれも利用していない住民のうち80% が除雪パートナーシップ制度を支持していることがわかる。

8. 除雪パートナーシップ制度と市民助成トラックの比較

8-1 両制度の利用町内会数と対象路線長

平成11年度に市民助成トラックと除雪パートナーシップ制度で排雪した道路延長は、全市の生活道路延長の各々25.9% と 51.0% である。図10に示すように合計で全市の生活道路得延長の80%が両制度によって排雪されたことになり、市民が両制度に大きく依存しており支持も強いことがわかる。市独自の排雪計画の対象となっている生活道路は生活道路の総延長のわずか4% である。
図11にしめされるように除雪パートナーシップ制度の利用町内会数は同制度の導入以来堅調な伸びをみせている。一方市民助成トラックの利用町内会数はその年の累計降雪量によって大きく変化している。

          
      
図 10. 市民助成トラック・除雪パートナーシップで排雪された道路延長

          
       
図 11. 市民助成トラック・除雪パートナーシップ利用町内会数の変遷

8-2 両制度の費用比較

市民助成トラック制度を利用した町内会を対象とした1987年度のアンケート調査と同年の決算資料によると、雪の運搬距離は平均で4km(1985年度資料)、利用したトラック数(N1)はのべ=6,310 台 (1987年度資料)、トラック一台あたりの運搬回数(N2)は11 回 (1985年度資料であることから運搬排雪された雪の量はΣV= 6,310 (trucks) X 11 (trips) X 11.2 m3=777,000 m3となる。

(a) 助成トラック
助成トラック制度の場合市が負担する費用 (C1) 約 239百万円で市民が負担する費用 (C2 55%) は1987年のトラックに雪を積み込む費用についての調査では77.35 百万円である。同調査の回収率が 55%であることから C2 100% は 141百万円になると推測される。従って、助成トラック制度のもと市が負担した費用と住民側が負担したと見られる費用の合計は1995年度では 380百万円になると推測され、住民側の費用負担率は 37%となる。

(b) 除雪パートナーシップ制度
道路から排雪された雪の運搬距離を1985年度の平均である4 km と推測し、運搬排雪単価である428 円/m3を掛けると全体で333百万円と推測される。助成トラックの場合と比較して、除雪パートナーシップ制度の方が47百万円少ない。この費用の差は規模の利益と効率改善によるものである。

(c) 比較
市の除雪パートナーシップ制度の決算資料によると、市と住民の費用負担率は70% : 30%である。これは、同制度の利用申請地域にあるスクールゾーンと道路幅が10メートル以上の道路は市が全面的に費用負担していることによる。市の負担額は233 mill. yen (333百万円X 0.7 = 233.00 百万円)と推測されこれは助成トラックよりも 6 百万円少なくなる。市民側は合計で47 百万円助成トラックより少なく、除雪パートナーシップ制度を利用することによって、市民と市の双方がより少ない費用負担となり、便益をうけることとなる。

9. 結論

札幌市では市民の間に生活道路の除排雪、とくに運搬排雪に対する需要が高く、より高いサービスレベルが求められている。そうした市民ニーズに応えるため、市は助成トラック制度を1969年に開始した。しかし町内会メンバーの高齢化と道路からトラックに雪を積みこむ作業中に事故が発生した場合の管理瑕疵が課題となってきていた。また助成トラック制度では、住民側が利用する日程を決めるため、市は包括的な除排雪計画ができず効率化を図ることが難しかった。
こうした背景から市は除雪パートナーシップ制度を総合雪対策計画である雪札幌21計画で導入した。
除雪パートナーシップ制度が導入される前の1988年に生活道路の除排雪水準の向上に対する市民の支払い意思額を仮想市場法で調査した。支払い意思額の平均値と中央値は各々40,232 円と20,000円できわめて高かった。この結果を踏まえ、札幌市は除雪パートナーシップ制度を試験的に21町内会を対象に翌1989年にパイロット・プロジェクトとして導入した。四軒導入後のアンケート調査では80%が同制度を支持した。さらに同制度の導入10年後の1999年に住民の同制度の認知度と評価についてアンケート調査し、回答者の81.5%が同制度を支持しており、支持者には利用者以外も多く含まれている。
 助成トラック制度に比較して、住民と市の両者にとって除雪パートナーシップ制度では費用負担を軽減するこkとができる。一冬あたりの両制度の費用の差は、市民側には47百万円で市側では6百万円である。
 除雪パートナーシップ制度で各世帯が負担する費用は1999年度の平均で2,078円である。また、両制度で運搬排雪される道路延長は、全市の生活道路の総延長3000kmの約80%である。もし市が全面的に運搬排雪の費用負担すると仮定すると費用は膨大なものとなる。
このように除雪パートナーシップ制度は住民に高い評価を得ているが、かならずしも住民が満足しているわけではない。例えば1999年度の調査では、年二回(現状では一回のみ)の除雪パートナーシップ制度を望む声もあった。今後はそうしたケースの費用負担などを含めた検討も必要になると考えられる。


謝辞
本研究の検討資料となったアンケート調査を実施した北海道大学工学部工学研究科修士課程の冨士田氏(現北海道庁勤務)と数多くの資料を提供していただいた札幌市の長利課長と茂木氏に御礼申し上げます。


参考文献
1) 除排雪に関する市民意見調査(1998年)、札幌市、 1998 年
2) 除雪パートナーシップ制度の効果について、桜田等、 第11回寒地シンポジウム論文集、10p〜14p, 1992年
3) 除排雪に関する支払い意思額調査、原等、第18回寒地シンポジウム論文集、638p〜641p, 1999 年
4) KLP法による住民の支払い意思額に関する調査、北海道大学大学院工学研究科修士論文、2000年
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