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ベスト・バリューによる冬期道路管理の評価 −英国・グラスゴー市を事例として− Case study of Performance Measurements for Winter Road Maintenance in Glasgow by Best Value (社)北海道開発技術センター 正員 原 文 宏 北海道大学大学院工学研究科 正員 山 本千雅子 |
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1.はじめに 英国グラスゴー市は北緯56°に位置し、スコットランド最大の都市で、人口が約62万人、スコットランドの産業や商業の中心でもある。 1998/1989に冬期道路管理に評価制度が導入され、ベスト・バリューサービス・リビュー(効率見直し)1)が実施された。その結果、初年度で10万ポンドの経費が削減された。このような評価制度等によって、現在のグラスゴー市の冬期道路管理は各部門が有機的に連携して、効率的・効果的に運営されているとのことである。 本報告では、2003年7月10日(木)、グラスゴー市で冬期道路管理を所管するランドサービス局George Kennedy氏、Kenny Hutchison氏に行ったインタビュー調査及び文献調査から、グラスゴー市の冬期道路管理の現状を整理するとともに、ベスト・バリューによる評価手法をまとめ、我が国への適用等を考察する。 2.グラスゴー市の冬期道路管理 冬季の平均気温は4〜5℃程度、降雪量は通常50〜75ミリメートルで、1999年に200ミリメートルの降雪があったときには、ほぼ2日間、市内の交通が止まった。しかし、我が国に比較すると降雪量は少なく、路面の滑り対策が冬期道路管理作業の中心である。 冬期道路管理作業は、降雪時にスラッシュ状態の雪に対する機械除雪作業と氷点下の気温が予測されるときの事前塩散布及び凍結後の塩散布作業が行われる。冬期道路維持管理延長は680km、市内全道路1770kmの約1/3が対象である。 2.1組織体制 グラスゴー市は、いわゆる直営で冬期を含め、道路の維持管理を行っている。冬期維持管理の中枢機能を担うのは、「冬期コントローラー」と呼ばれる4名のランドサービス局の技術者である。毎年、4名が選ばれ、気象情報の解読と、どのような路面状態が発生するかについてMet Office(気象情報提供機関)でトレーニングを受け、さらに局内の経験者から指導を受ける。4名は通常業務に加え、冬期間は一週間交代で冬期道路管理作業の意思決定の中心的な役割を果たす。 各作業基地には「冬期スーパーバイザー」が派遣され、冬期コントローラーからの指示を的確に現場に伝え、現場をとりまとめる。現場で作業を行う作業員や冬期維持管理車両運転手はランドサービス局の職員で、道路管理担当職員に加え、公園管理や道路清掃などの業務担当者が冬期間は志願制で通常業務に加え夜間の冬期道路維持管理作業を行う(時間外手当は支給される)。作業組織体制は、いわゆる道路管理者の「直営」であり、冬期スーパーバイザーも作業員・運転手も必要なトレーニングを受けなければない。 2.2作業基地と凍結防止作業 市内3箇所(ガートクライグ、ロッホバン、ニッツヒル)に作業基地がある。かつては作業基地が9箇所あり、郊外の基地で作業をコーディネートしていた。しかし、一方通行道路が多く複雑な古都グラスゴーでは効率的なルート選択が難しく、各作業基地の維持管理車両が通行する道路区間が重複したり、塩を散布せずに走行する距離が長くなったりしたため、非効率な部分が多かった。しかも郊外にある基地からでは各地域の天候状態を的確に把握できなかった。 1998年から実施されたベスト・バリュー・サービス・レビューによって、作業基地は3箇所に統合され、合理的な作業ルート設定が可能な場所に建設された。 凍結防止剤には岩塩が使用されている。散布量は、天候に応じ、3〜10g/m2、10〜20 g/m2、20〜40 g /m2という3段階から選択される。また、サーマルマッピングによる情報で各道路区間の温度変化特性を把握し、余分な塩散布をせず、必要なところに散布するという方針を徹底している。経済面、環境面からみても塩散布量の削減は重要な課題で、1990年代の中ごろ散布量は240 g/m2と現在よりも一桁多かった。 2.3冬期道路維持管理車両 全ての車両が冬期・夏期両用である。トラックに除雪プラウを取り付け、荷台には塩散布用のスプレッダーを積載して、除雪作業と塩散布作業を実施する。現在、45台のトラックが34の冬期維持管理ルートに投入され、1ルートあたり1.3台となっている。 全車両にBPSが装備されていて、コンピュータ制御で道路区間に応じた塩量を散布し、重複して散布しないように散布機のON/OFFも管理している。各ドライバーには、どこでON/OFFするかを明確に記入した地図が毎回渡される。また、実際にどれだけの塩を散布したかもGPSで管理している。夏期は公園の清掃に利用している小型車両の後部に袋のようなものを装着し、歩道の塩散布に使用している。 2.4意思決定プロセス 毎日Met Officeから午後1時の気象予測を受け取ると、その夜の作業について意思決定を行う。24時間後までの気象予報が提供される。冬期コントローラーは、作業予定を作成し、経験豊富な上司に相談する。そして午後4時30分までに作業指示書(アクションリポート)を出す。 作業は、1)直ちに塩の事前散布を実施する、2)塩の事前散布時間を決めて実施する(例えば午後7時から実施)、3)塩の事前散布が必要と予想されるが作業開始時間が未定(例えば、雨がふっている、気温が氷点下になる可能性が予報されているとき)、4)塩の事前散布が必要かどうか予測困難、5)冬期維持管理作業なしの5つから選択される。 作業指示書は、必要な作業の指示が項目ごとに記入されるような構成であり、参照した気象予測が出された時間も記入される。主な作業指示の項目は、何も作業を行わない、スタンバイ時間、作業開始予定時間、作業内容、各作業基地の冬期スーパーバイザーの集合時間、道路パトロールの開始時間、散布する塩の量などが手書きで記入される。降雪が予測されるときには、除雪やスラッシュ除去作業についても記入する。この指示書には当日の責任者である冬期コントローラーが署名する。 緊急気象予測が出されたときは、作業内容の変更を検討し、意思決定内容に従って各作業基地の冬期スーパーバイザーにポケットベルで同時に連絡する。冬期スーパーバイザーは冬期維持管理車両の運転手等作業員(平均20名)をポケットベルで召集する。突然の気象状態の変化にそなえ、担当者は24時間体制をとる。 3.ベスト・バリュー政策 3.1ベスト・バリューの概要 2000年4月から、英国全土の自治体で一斉にベスト・バリュー(Best Value)と呼ばれる評価システムが導入された。ベスト・バリューとは、「地方自治体の業績を評価・監視して、効率性とともにサービスの質的な向上をめざす政策」3)と言われる。 特に、現状から向こう5年間のリビューを行い、基本的な改善見通しを明らかにすることが重要なポイントとなっている。レビューは、以下の4つの視点で行われる。("4C's"と言われる) @挑戦(challenge) これまで実施されてきた業務について、目的や内容を根本的に再検討する。 A比較(compare) 他の自治体や類似団体等との比較を行うことで、客観的な状況を把握する。 B協議(consult) 関係する幅広い市民(デメリットを生じる市民も含む)やサービス利用者との協議。 C競争(compete) 民間企業、NPO、行政にサービスの質やコストを競わせ、効率的で有効なサービスを得る。 具体的には、以下のような順番で実施され、自治体及び国はそれぞれの役割を担う。4) (1) 自治体全般の目標と業績評価の設定 自治体全体の総合的な目標設定が行われ、国は総合業績指標の策定を行う。 (2) 5年以内の見直しプログラム 5年以内に自治体の全業務の見直しが一巡するようにプログラムを作成する。 (3) 見直し業務分野の選定と見直しの着手 1年目に見直すことになった業務について、前述した4C'を踏まえた見直しを行う。 (4) 業績計画の策定と公表 自治体の各業務の見直し方法、達成目標、業績結果、将来戦略を内容とした業務計画を策定、公表する。 (5) 見直しの査察/業務計画の監査 第3者機関である監査委員会から派遣された査察官が見直し結果を担当し、業績計画について監査官が担当する。その結果に基づいて業務上の改善、向上を促すほか、失策については市民を保護するために関係国務大臣による介入を行う場合もある。 (3)〜(5)の部分が、自治体の個別サービスにおいて見直しを行う時に繰り返して行われる部分で、前述した4C'sを基本に実施される。本報告の事例としてとりあげたグラスゴー市の冬期道路管理サービスも、この部分に相当する。その結果は、冬期道路維持管理「ベスト・バリュー・サービス・リビュー」として公表されている。 3.2冬期道路管理に関するベスト・バリュー グラスゴー市におけるベスト・バリューにもとづく冬期道路に関するサービス水準の評価は、以下の@〜Fで構成されている。 @目標(Aims and Objectives) A住民及び関係者(Stakeholders) Bベンチマーキング(Benchmarking) C業績評価(Performance measurement) Dコスト&サービス評価(Cost & Service Appraisal) Eアウトカムの評価(Outcome) F今後のサービスの改善 これらを、4C'sの視点から分類すると、「挑戦」:目標、今後のサービスの改善、「比較」:ベンチマーク、「協議」:ステークホルダー、「競争」:業績評価、コスト&サービス評価、アウトカム評価に大きく分けることができ、ベスト・バリューの基本フレームに沿った、リビューとなっている。 このリビューを行う目標(目的)として、既存のサービスの規模・コスト・経済性の明確化、業績指標となる測定可能なサービス基準の決定と改善の方向性を明確化、ベンチマーキングの実施、他機関や企業による当該サービスの比較、サービスの経済性・効率性・効果性の改善などが設定されている。以下には、特に評価のポイントなる住民及び関係者、ベンチマーク、業績評価について概要をまとめる。 3.3住民及び関係者 利害関係を含む、住民や関係者との協議と結果のフィードバックを行うために協議会が設置され、この分野の専門家が招聘された。協議会は1998年に結成され、構成メンバーは各界を代表する方々よりなっている。 協議会が、内部検討の他にワークショップを開催することによって、他の関係者やグループ間に存在する、「競合する要望」について理解が深められる効果もあったと報告されている。 協議会の検討結果から@道路整備の優先順位と資源、AコミュニケーションBベンチマーキングC新技術Dトレーニングの5つの勧告が行われた。 これらの勧告に基づいて検討を行い、その結果を1999年に予定されている2回目の協議会でフィードバックされることになっていたが、比較的暖冬だったために、対応するのに必要なタイムスケールを確保できず2000年にずれ込んだ。 3.4ベンチマーキング ベンチマーキングは、他の自治体との比較のために「共有化するための数値」であり、そのことによって自治体固有の課題を浮きぼりにすることができる。 グラスゴー市が冬期道路管理において設置したベンチマークは、エクスターナルベンチマーク(外部比較)とインターナルベンチマーク(内部比較)に大きく別れている。外部比較はスコットランドの他都市と比較し、内部比較は同市の作業基地間の比較である。 (1)エクスターナルベンチマーク 外部比較は、スコットランドの3都市、アバディーン、ダンディー、エジンバラと「車道1キロあたりの冬期維持管理費用」を外部比較のベンチマーク指標として比較している。 しかし、これらの都市の道路管理者が求める要求項目やサービスレベル、気象条件が異なることから、指標の適用については内部的な議論があったと報告されている。このような、ベンチマーキングの指標の信憑性や有効に機能されるために、似たような社会環境や自然環境を持つ自治体がネットワークをつくり、共同でベンチマーキングを行うことが提案されている。これを、「パフォーマンス・ネットワーク」と呼び、グラウゴーでは今回のベンチマーキングのために「ハイウェイ・パフォーマンス・ネットワークグループ」が設置された。 (2)インターナルベンチマーク 内部比較では、グラスゴー市にある3カ所(ロックバーン、ガートクレイグ、ニトシル)の作業基地を対象に実施された。ベンチマーキングの指標は、以下の通りである。 ・目標時間内に塩の事前散布を完了した道路の割合 ・朝7時までに塩の事前散布を完了した道路の割合 ・塩の事前散布した日数/降雪日数 ・除雪を行った日数 ・目標とする散布率との差異 ・滑り止め材の使用量 ・滑り止め材の利用度(実績/総計) ・パトロールのみの日数(実績/総計) ・ランドサービスの使用した塩の総量 ・標準の事前滑り止め材散布における塩の量 ・標準外の事前滑り止め材散布における塩の量 以上の11指標がインターナルなベンチマークとして設定された。特に最初の「3時間の目標時間内に塩の事前散布を完了した道路の割合」は、重要な位置づけとなっており、今回のリビューでは、3カ所の作業所のうち、交差点や信号の多い市の中心部を受け持つロックバーン作業基地の業績が最も悪い結果となった。 3.5業績評価 業績評価は、市全体の規模で基準化された。また、業績指標(PM)は6つにカテゴリー化され、それぞれ主要業績指標(KPM)1つを含む、いくつかの指標によって構成されている。 業績指標の6つのカテゴリーと主要指標は、以下の通りである。 @冬期前の準備 KPM:10月1日までに準備ができた車両の割合 A滑り止め材散布と意志決定プロセス KPM:3時間の目標時間内に塩の事前散布を完了した道路の割合 B道路の効率性と優先度 KPM:ルートとして効率性の割合 C新技術の使用 KPM:サーマルマッピングの行われた道路ネット D市の他部門や外部機関との連携により使用出来る資源 KPM:他部門や外部機関と連携を行った日数と散布を行った日数の割合 E冬期道路管理コストの評価 KPM:道路1キロ当たりの冬期道路管理に要した実費用 表1には、グラスゴー市で考慮した業績評価指標の詳細を示す。1998〜1999については、ほとんどの項目が平均値として記述されている。1999年以降の冬については予定であり、主要な指標以外は計測が難しいものや、気象条件に左右されるものが多い。 4.考察 以上のような調査結果に基づいて、我が国への適用を考慮して、考察を行う。 協議会は、我が国においても実施されていることではあるが、どちらかというと形式的になる傾向があるのに比べ、利害関係者も含めた形での議論やフィードバックを義務づけている点は、より実質的である。 ベンチマーキングについても、他都市との比較検討は、我が国でも実施されている。しかし、それらが継続的にシステム的に実施されている自治体は、ほとんど無い。また、比較検討を行う時にも、気象条件や地域特性が違うだけでなく、予算科目の区分、組織体制も異なることから、データによる比較が難しいのが現状である。その意味でベスト・バリューにおける「パフォーマンス・ネットワーク」の考え方は、特筆すべき点で、我が国においても積雪寒冷地域の都市規模や気象条件が類似した自治体ごとに、ネットワークを形成して同一のベンチマーク指標を設置することは重要な視点である。 業績評価指標(PI)の中で、特に塩や滑り止め材の散布と意志決定のカテゴリーに詳細に多くの指標が提案されている。グラウゴー市の気象条件からみて、当然の結果であり、この部分が費用やシステムの効率化に大きなウエイトをもっていることからも妥当である。我が国の気象条件を考えると、我が国では除雪や運搬排雪等の雪の物理的な処理に関する業績指標も必要である。また、業績指標には、データの取得が難しい項目を多く、どのようにデータ取得するかは、世界的な課題である。 参考文献 1)"Best Value Service Review - Winter Maintenance", Year 1 Review 1998/99, Land Service, City of Glasgow, England, 1999. 2) "Winter Maintenance Plan 2002/2003", Land Service, City of Glasgow, 2002. 3) 長谷部英司:英国の挑戦に学ぶ−ベスト・バリュー政策の真髄に触れて−、平成12年度札幌市海外派遣研修報告、平成12年12月、札幌市 4) 遠香尚史:英国のベスト・バリュー施策にみる行政マネージメント改革、SRIS Report Vol.6、No1、pp15-25、2002 表1 グラスゴー市の業績評価指標一覧 |
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